一片の雪

雪の降る季節、それぞれの抱く思い。

『観覧車と空』『雪』『六花』の3編を収録した短編

創作庵 月雪花 (著), 巴乃 清

冬に纏わる『観覧車と空』『雪』『雪花』の3編を収録した
オムニバス掌編

Kindle版 150円
※Kindle Unlimitedの方は無料でお読み頂けます。

紙書籍版 200円

試し読み

 結婚するという話を聞いたのは、人伝だった。五十嵐祐次はなんとも言えない気持ちでそれを聞いた。
『やっぱり知らなかったんだ』
 という、それを伝えてきた昔の仲間の言葉尻が、余計になんとも言えない気持ちを増長させた。
 久しぶりに自宅の電話機を使ったな、とぼんやり思いながら受話器を置く。
「結婚、か」
 思わず呟いてみる。女性ほどではないのかもしれないが、周囲からのプレッシャーを感じないでもない。自分の父親が三十二歳の時は自分の小学校の入学式に出ていたと思うと、多少の焦りも感じる。親しい友人で結婚しているのはまだ少数だが、そろそろ所帯を持つのも悪くはないと思う。
 祐次は窓を開けて、薄汚れたサンダルを履いてベランダへ出た。肌寒い空気が部屋に吹きこんでくる。枯葉が吹き飛ばされるのを見て、余計に物寂しい気持ちになって苦笑いをした。

観覧車 より